「えっ!一緒のベッドで寝るの?」
「だって、俺の部屋、ベッド一つしかないもん」
びっくりヤマトに、ちょこんとアリババ。
「でも、別に問題ないだろ?」 と、二人でベッドを見れば、
「・・・なんで、こんなにデカイんだ・・・?」
頑張れば三人でも寝れそうなベッドである。
アリババはヤマトの方を向いたまま、大きな翼の片方を、ばさっと広げて見せて、
「これ」
ベッドの脇で、うーと小さく唸るヤマトをヨソに、さっさとアリババは鎧を脱ぎ出す。
「何か、モンダイ?」
と、固まったまんまのヤマトに、眉毛を下げ、首をちょっとかしげて、アリババは尋ねる。
「イヤ、別に」
ヤマトは、本当にほんのちょっとだけ、赤くなった顔をそそくさと反らす。
アリババは大きくせり上がった肩当てを、台の上に置き、ぷはーと大きく一息。
「これって、肩がこるんだよなあー」
「重いのか?」
「うんにゃ。気持ち的に」
ずっこけるヤマト。
「こういう堅苦しいの、ニガテなんだよ」
ヤマトは割磨聖光剣をベッドの脇に立てかけて。
「そういや、お前ずっと軽装だったもんな。若神子の時も、神帝の時も」
「そっ!・・・これで楽チン」
勢いよくアリババはベッドに身を投げ出す。鎧を全部脱ぎ終わって、薄手の衣。
ターバンは?ターバンも取る。
「次界へ旅してた時は、こんなのありえなかったよな」
アリババは両手で、量が多くて長い髪の毛を後ろからすくい上げ、ばさっと散らす。
「常時、臨戦態勢。警戒を怠らず。気の抜けたことはなかったな」
ベッドの、アリババの反対側にヤマトも、同じように座る。楽な格好になって。右手で、ベッドの柔らかい感触を確かめながら、感慨深げに。
「こんなベッドなんてさ・・・」
「ま、そこらにゴロ寝も楽しかったよな。今、思えば!」
「ははは」
ヤマトが朗らかに笑う。
「因みに、このベッドは、聖ボット軍団が新たに開発したもんなんだ。すてぃーる製の組立型簡易ベッドだ。軽量で持ち運びが簡単な上に、丈夫で機能性も抜群。野営地での居住性の向上に一役買ってるんだな」
「ははは・・・」
ことあるごとに、聖ボット軍団の自慢話をしたがるアリババ。
「で、翼があるなら、尚更・・・」
一枚の毛布の下に滑り込んだアリババに、ヤマトは未だベッドの上に座ってる。アリババは普通に。
「こうすればいいだろう?俺がこうで、お前がこう」
アリババは背中の翼をヤマトとは反対に向け、横向きになり、ヤマトに毛布を開く。
二人。ベッドで横になって、顔をつきあわせる。
「なんか、久しぶりだなー!お前とこうやって寝るの!」
御機嫌御満悦なアリババの笑みが、ヤマトに向かってくる。
「いつも、隣で寝てたよな!」
「そうだな」
思いきり、はしゃぐアリババに、ヤマトは軽く笑う。と、・・・。どうも、ヤマトは、しっくり来ないらしい。勿論、アリババの隣に寝るのが、イヤなわけではない。
アリババの楽しそうな声が、耳から耳へと飛んでいき。
「あー!」
と、アリババは毛布を肩まで持ち上げて、目だけ覗かせて。
「ちょっと、ドキドキすんなー」
遠くに意識が飛んでいたヤマトは、その言葉に、はたと気付いて、はたと、その言葉の意味について考えてみて。
「ドキドキするってなんだよ!」
と、少々遅れて、ぶっきらぼうに尋ね返した。
が。アリババに応答はない。試しに、顔を隠している毛布を少し下げてみる。
(寝てる?)
耳を澄ませば、くかくか安らかな寝息もする。
ヤマトは、はあとなって、白い枕に顔を押しつけて。
(こいつって、・・・基本的には、マイペースなんだよなあ・・・・・・)
ヤマトは頭を横に向け、アリババの寝顔を、寝ながら眺めてみることにする。
灯りの消えた室内は藍色。布を掛けた小さい丸窓が、ほんのうっすら明るい。
(こいつって美人なんだよなー。鼻すじ通ってるし、まつげ長いし、・・・眉毛太いけど・・・)
以前、よく眺めた寝顔である。というのも、とっととアリババは先に寝てしまうヤツだったからである。
前と変わらず、アリババの顔には無邪気さがある。子供のように純真な、笑ってるのが一番よく似合うと思う。けれども、線の細くなった顔立ちに、幾何の影を感じもする。
ヤマトはじっとアリババを見詰める。
(お互い、もう子供の神帝じゃなく、大人だってことだ、・・・)
「ワッ!」
アリババ、いきなり、目を開ける。
「わっ!!!」
ヤマトは大声を張り上げる。
「寝ないのか?ヤマト!」
寝ぼけ眼で聞いてくるアリババは、なんだかクスクス笑っているようにも見える。ヤマトは心底驚いた、っちゅうのに。
「寝るよ!」
ヤマトはぎゅっと目をつぶった。
「ヤマト・・・」
「うん」
うとうとしたアリババの声を、ごく間近に聞く。
「・・・お前とこうして、また寝れるなんて、嬉しいよ・・・。・・・・・・おやすみ」
「おやすみ」
ちょっと経ってから、寝返りをうつヤマト。それを見ているアリババ。
「うわ!」
夜中にヤマトの目が覚めた。オモイ、重い!自分の体の上に覆い被さるように、乗っかってきたもの。ヒトの重み?!
何故か、心臓を激しくバコンバコンさせながら、ヤマトは目を開き、状況確認。
翼。アリババの大きな翼が、仰向けの自分の体の上に、見事に乗っかっている。
当のアリババ本人は、あっち側を向いて、腕と足を広げて大らかに寝ていて、気持ちよさそう。
ヤマトは下までずれている毛布を、翼と自分の体の隙間から腕を伸ばして、掛け直してやり、そして、体の向きを変えるのも、起こしてしまいそうでカワイソウなので、そのまま体の上にのせておいてやることにする。
ヤマトは溜息混じりに、笑みもこぼし。
(相変わらず、アリババ、・・・寝相がワリイなあーーー)
おわり
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