それは多分わずかな間 (3)
ヤマトとアリババ

 

「ヤマト。こんな星空の下で。天安京で、十字架天使とお前と俺で、三人きりだった時だ。お前と二人で、話をしたことを覚えてるか?」
「覚えてるよ」
 並んで立つ二人は、星空を見上げる。
「あれから、随分と時が経ったなあ・・・・・・」
 しんみりと、アリババは。
「あの頃が一番楽しかったかもしれない。何も恐れず、ただ、がむしゃらに前に進めばよかった・・・・・・」
「そうだな」
 ヤマトは深くうなづき、そして、次界の空をわずかに睨み。
「・・・・・・ボクは時々思うんだ。・・・・・・ボクらは、大きな罪を犯しているんじゃないかって」
 アリババは、空を見上げるヤマトを見る。
「聖魔が共に暮らせる新世界の創造を目指して、ボク等は次界にやって来た。けれど、次界には、すでにそこで暮らしていた天使やお守りや、・・・悪魔がいて。ボク等は彼等を、ボク達の戦いに巻き込んでしまっただけなのかもしれない」
 ヤマトは顔を険しくして。
「天使と悪魔で仲良くしようと言いながら、ボク達は、どれだけ多くの悪魔の命を奪ってきたか・・・・・・」
(そして、戦いの中で大切な命を奪われる悲しみを・・・・・・)
 ヤマトはつぶやく。
「・・・・・・そんなコト、あの頃は、何も考えてはいなかった」
「・・・・・・ただ、希望だけがあった」

「アリババ!お前は、ずいぶんと、聖ボット軍団の仲間に慕われているな!」
 と、明るく、ヤマトは話しを始める。
「今日、いろんな奴等と話したんだ。すっかり、聖ボット軍団のリーダーじゃないか!」
「・・・・・・」
「お前は人一倍責任感が強くて、行動力があって!お前がボク達のリーダーになっても、おかしくはなかった・・・」
「ははは」
 アリババは軽く笑って、
「お前も大人になったなあ。お世辞が立派につけるようになったじゃないか」
「本気だよ」
「リーダーなんて、俺のガラじゃない。俺は心から、お前が俺達のリーダーで良かったと思ってる」
 アリババはそう、しみじみと言い、ニッとヤマトと顔をつきあわせる。
「でも、こんな俺についてきてくれてる、聖ボット軍団のみんなは。俺がパワーアップする前から、神帝の時からだ。とても、感謝しているよ・・・」
「・・・・・・うん」
 ヤマトは少し下にうつむく。何か、物言いたげに。
「どうした?」
「なんだかさ、」
 ヤマトは照れ笑いのような笑みを一瞬浮かべて、下を向いたまま。
「お前は、自分が苦労してきたことなんて、絶対に喋らないだろうし・・・。・・・お前のコトで、ボクが知らないコトがたくさんあるんだなあ、とか思ったら、・・・・」
 ヤマトは顔を上げる。
「正直にいえば、」
 眉を下げる。
「寂しかった」

「ヤマト・・・・・・」
 心静かに、アリババは。
「昼間に俺が言いかけたこと・・・・・・。俺が『夢』の理球を生み出した時に、」
 すっと、天を仰ぐ。
「闇夜に架かる虹を見たんだ」
「虹?」
 不思議そうに、ヤマトは訊く。
「うん。星も光も無い、暗黒の空に。とても巨大な虹が。俺の目の前から、遙か遠くまで続いていた・・・・・・」
 燦然と輝く、七色の虹。どこまでも美しく、どこまでも切なく。
「その時、思ったんだ。・・・・・・これは、命の光なんだって・・・・・・」
 そこには誰もおらず。彼方に手を伸ばしても。一人。胸が締め付けられる・・・。
「その虹が、もしかしたら。・・・・・・ボクらに関係があると思うのかい?」
「分からない」
 アリババは口を結ぶ。
「・・・ただ、・・・俺達が、揃いも揃ってパワーアップした。それには、何か、意味があるんじゃないかな・・・・・・」

 顔を伏せたアリババの表情を、長い横髪が隠す。
「ヤマト・・・・・・。俺が一番ツライことは、・・・・・・・」
 やっと、口にする。
「この次界で、お前達の力になれなかったこと」
「アリババ・・・・・・」
 ヤマトは眉を寄せ、アリババの近くに寄り添う。
「ロココ様を失い、お前がヘッドになって、最も苦しい時に、」
 アリババの声が上ずる。
「俺は何一つ、力になれなかった・・・・・・」
 風が吹く。
 今にも消え入りそうなアリババの横顔の、髪が後ろに流れ。
 ヤマトは、ハッと目にする。
 アリババの頬に伝う涙。
「大好きだよ・・・・・・」
 声はむせび。
「みんなのことが・・・・・・」
 アリババはヤマトに振り返り、涙に濡れた目を細めて、弱々しく微笑んだ。
「・・・・・・もっと、一緒にいたかった・・・・・・」
 ヤマトは、アリババの肩に手をまわし、そっと引き寄せると、優しく抱きしめる。
「これからは、ずっと一緒じゃないか・・・・・・」