追憶
ヤマトとアリババ

 
 
(・・・・・・ヤマト・・・・・・、良かったな。・・・・・・エライ天使になれて・・・・・・)
 闇に、朧に浮かぶ亡き人は、目を細めてうっすら微笑む。
(・・・・・・夢が叶ったじゃないか・・・・・・)
(・・・・・・そんなコト、言わないでくれよ・・・・・・)
 ヤマト爆神はつぶやく。
(・・・・・・アリババ神帝・・・・・・)

 ボクは一人ぼっちだ・・・・・・。
 
「キミ達に、ボクの何が分かるっていうんだあ!」
 魔魂の創りし迷いの森に、ヤマトの悲鳴が虚しく轟く。
 信じたものを疑い、愛したものを憎しむ。
 魔魂はボクの心の弱みに潜り込んできた。

 (なんで、お前がリーダーなんだ?)
 (ただの出しゃばりが、リーダーになんかになりやがったっ)
 (オイラは、お前なんか認めないぞ)
 (ヤマトのリーダーの資質など、疑わしいですね)
 (お前がリーダーかよ!頼りないなあー!)
 (ヘッドロココ様の代わりを、お前に務められるわけがない)

 妬み。嫉み。・・・嫉妬。
 重圧。期待に添えぬ苛立ち。疎外感。
 裏切り・・・。

 (そういえば、エライ天使になるのが、お前の野心だったなあー)
 (ヤマト、お前は始めから、こうなることを狙っていたんじゃないのか?)
 (上手いこと、ロココ様に取り入って・・・・・・・)
 (ロココ様はお前に騙されたんだ)
 (ほら、ヤマト爆神、もっと戦えよ!パワーアップしたんだろ!)
 (戦いなさい!ヤマト爆神)
 (戦い続けろ!ずっと、ずっと、ずっとっ!)
 (その命が尽きるまで!)
 嘲笑が響き渡る。
「うるさい!うるさい!うるさあーい!」
 ヤマト爆神は頭を抱えて、絶叫する。
「ボクは、本当に、パワーアップなんかしたくなかった!」
 (あああ〜。また、無理言っちゃったって)
 (俺タチは、みーんな、お前の醜い心の内なんて分かってるんだよ)
 (素直に認めてしまえば、どうですか?)
 ゆがんだ仲間の顔がヤマトを囲み、口を揃えて笑う。
 (リーダーになれて、嬉しかったって!)
「みんなっ、ボクの前から消えろー!」

「きゃーの、きゃーの!ヤマト爆神さん、ヘッドになって、おめでとうですの!」
 自分の右腕に、アローエンジェルが抱きついている。
「アローエンジェル!」
 彼女は上機嫌ではしゃいでいる。
「これで、私もヘッドのお嫁さんですの。ずーっとっ、私が目をつけてきた甲斐がありますの!」
「何を喜んでいるんだ!キミはっ!」
 ヤマト爆神は眉をつり上げて叱咤する。
「そのために、ロココ様がっ!」
「なーんで、私だけ、ワルイ子ちゃんにしますの!」
 彼女は不満そうに膨らました顔をヤマトに突き出す。
 そして、恐ろしい眼で、静かに囁いた。
「・・・・・・ヤマト爆神さんが、自分のために、ロココ様を殺したんでしょう・・・・・・?」

 魔魂は、優しく、ボクに言った。
 (そう・・・・・・。お前の苦しみなど、誰が知ろうか・・・・・・。彼等は、タダ要求するだけ。自分達の欲だけを主張し、お前を理解しようとする者は誰一人おらぬよ・・)
 自分が壊されていく。・・・・・・壊れていく。
 (さあ・・・・・・。こっちにおいで・・・・・・)



 暗転。再び、何も無い闇。
(・・・・・・ヤマト、・・・・・・)
 側に、亡き人が佇む。
(・・・・・・俺はダレなんだろう・・・・・・?・・・天使でもなければ、悪魔でもない・・・・・・)
 マスクもターバンもつけずに、美しい赤い長い髪をなびかせる。
(魔に一度でも染まりし、この魂は、二度と浄化はされない。・・・・・・この先、天を繋ぎし光へと身を燃やしても、清らかな光に転じることは決してできないんだ・・・・・・)
 彼はこちらを見詰める。
(俺は悪魔として、お前に討たれるべきだったのかもしれない・・・・・・。汚らわしい宿命を背負い、長い時をたった一人で生きていかねばならないのなら・・・・・・)
 彼は手を差し出す。その腕は緑の鱗に覆われ、差し伸べた己の手も、毛ばたち血に赤く濡れる。
(・・・・・・俺タチは、一体・・・・・・)



(・・・・・・苦しい、・・・・・・苦しいよ・・・・・・)
 地に伏してヤマトは、藻掻き苦しむ。
(・・・・・・苦しいんだ・・・・・・)
 顔を地にこすりつける。
(・・・・・・君は、これよりも、苦しい思いをしたんだね・・・・・・)
 涙が頬を伝う。
(・・・・・・アリババ・・・・・・)

 助けなど決して来ない闇の中で、君は一人で戦ったんだね・・・・・・。

 ボクは、君の苦しみを全く理解していなかった。
 君はいつも自分を責めてばかりで。僕等に頭を下げてばかりで。
 ボクはキミを励ました。でも、そんなのは、偽善だ!
 キミは本当は、「苦しい」と泣き叫びたかったはずなのに!
 「助けて」と救いを求めていたはずなのに!
 ボクは、・・・・・・・。
 ボクは、君の心の傷をちっとも癒そうともしなかった。
 ・・・・・・君は、ボクに助けを求めていた。
 でも、ボクは気付かない振りをしていた・・・・・・。


 藍色の光の球が、闇を照らしだす。
(ヤマト・・・・・・。希望はいつも、俺達の中にある・・・・・・)
 闇へと薄らぐ、その姿は儚く消えゆく。
(・・・・・・自分の責任を果たせ・・・・・・)



「ヤマト爆神さん!ヤマト爆神さん!ヤマト爆神さん!」
 自分を呼ぶ声。切ない絶叫。・・・・・・愛おしい声。
「起きて!起きて下さいの!ヤマト爆神さん!!!」
 激しく自分の体を揺り動かす腕。細い腕。それに、そっと触れる。
「・・・・・・ス、・・ストライク、天使・・・・・・」
「ヤマト爆神さん!」
 魔魂から解放されしヤマトは未だ、十分に起きあがることができない。時折、悪夢にうなされる彼に、看病に付き添うストライク天使の、涙に濡れた顔が霞んで見える。
「もう大丈夫ですの!大丈夫ですの!私がずっと、ついていますの!」
 ベッドの上に寝るヤマトの胸に、彼女は声を上げて泣きじゃくり、上から覆い被さる。
「私が、ヤマト爆神さんを守りますの!」
 ヤマト爆神は涙を流しながら、エンジェルの手を強く握る。
「ストライクエンジェル!ボクわぁ、・・・・・・!」