魔都の夜語り
ヤマトとアリババ


 「へえー。それじゃあ、ヤマトはエライ天使になるために、小さい時からずっと剣の修行をしてきたのかあ」
 「まあな、」
 と、ヤマト王子は得意げに胸を張る。
 感心する目の前の相手を、さらに感心させようと。
「クサビ打王の下で、厳しい厳しい修行に耐えてきたんだぜ!」
 騎神アリババは、白いしっぽをパタパタさせながら、何やら思案顔。
「桃源如来は、いつも俺に優しかったなあ。・・・怒ったら、コワカッタけど。わりと、俺を自由気ままに育ててくれたんだろうな・・・」
(だろうな)
 と、心の中で、ヤマト。
 アリババを見ていると、のびのびとまっすぐに育ったんだろうなあ、と思うもの。

 天安京の夜。林に開けた空き地の真ん中。赤々と燃える焚き火を前に、二人は並んで座っている。
 傍らには、すでに眠っている十字架天使。タオルケットを体にかけて、くかくか寝息をたてている。
 上は満天の星空。

「ヤマトはスゴイなあ・・・。小さい時から目標をもって、頑張っていたなんて。俺といったら、何か面白いことないかなあ、ってこと、ばかり思っていたもの」
「アリババは好奇心が旺盛だからなあー」
 と、ヤマトが笑う。
「でも、お前だって、何か修行してきたんだろ?」
「まあな。理力を高める修行はしてたさ。その時は、ピンとこなかったけど。いつか役立つ日が来るっ、て・・・。桃源如来は、俺が聖夢剣を手にするってこと、分かっていたのかな」
 アリババは、側の小枝を、一本だけ、焚き火に放る。

「俺の聖夢源は、天聖界の中でも、ちょっと特殊な場所でね。あそこで、天聖界の夢が生まれるわけだけど、だから、あんまり、マイナスな感情を抱いてはだめなんだ。特に、誰かを嫌ったり、妬んだり、争ったりしてはね。そういう嫌な感情が、夢に影響してしまう。本当は、あそこで戦ったりするのも良くないんだ。それでも、少しは、剣の修行とかもさせてもらったりしてたけどね」
「ふうん」
 と、ヤマトは伸ばしていた足で、あぐらを組む。
「聖夢源は、毎日が、ゆっくりのんびり、過ぎるんだ。とても穏やかで。俺は、そういう聖夢源が大好きだったけど、外の世界も見たくなって。それで、桃源如来にお許しをもらって、武者修行の旅にでたんだ」
「何だか、お前の話を聞いてると、聖夢源って、いつも昼寝をしてるような所みたいだなあ」
 からかう目つきをして、ヤマト。
「まあな。でも、慣れてない奴には、結構、騒がしいみたいだゼ。毎日、あちらこちらで、いきなり、いろいろな夢を見るもんだから」

「ボクの聖動源は、いつもいつも、いろいろなものが、動き回ってたな。とっても、賑やかだったぜえ!『でたがりお玉』とか、『すもうの木』とか、『ごろごろ滝』とかっ!」
「何だよ。それ?」
「こーんなに、でっかいお玉じゃくしが池にいてさ!」
 ヤマトは勢い良く立ち上がり、両腕を大きく広げて見せて、
「パンパンって、手を叩いたら、」
 パンパンっと、ヤマトは実際に手を叩いて見せて、
「でたがりお玉が池いっぱいに、現れるんだ!」
 目は弓なりに。ヤマトはとても楽しそうに、さらに顔を綻ばせて、
「アー!キミにも見せてやりたいなアー!アノ美しい聖動源をっ!」
「俺も聖夢源に連れていってやりたいよ。お前の見る夢って、さぞかし、笑えるような夢だろうしな!」
「そうかもなアー!」
 ハハハアー!と、二人で顔を合わせて、笑う。

「なあ、ヤマト。お前は、次界はどういう所だと思う?」
「そりゃあ、『花が咲き乱れ、木の実がいっぱいの』、」
「そりゃ、聖動源だろー」
「うーん、じゃあ」
 ヤマトは再び、地面に座って、
「『花がいっぱい咲いていて、美味しい木の実がたくさんあるような所』かな?」
「『次界に行ったら、エライ天使になれる』って、夢のお告げがあったらしいけど。エライ天使ってなんだ?」
「う〜ん」
 と、ヤマトは難しい顔をして、腕組みをして。
「それは、やっぱり・・・。スーパーゼウス様みたいな方のことじゃないかな・・・?」
 アリババは、なおも、無邪気な顔を向けてくる。
「ヘッドになれば、エライってことかあー?」
「う〜ん。・・・・さあ・・・」
「さあ?」
「・・・・行ってみれば、分かる。多分。」
 神妙な面持ちをしたヤマトが、えらく本気モードの声で言った。

「聖フェニックス様は、天使も悪魔も仲良く一緒に暮らせる世界を創るんだ、って、おっしゃってるけど」
 アリババは焚き火の炎に焼かれていく、木々を見つめながら、
「あのスーパーデビルやサタンマリアとも仲良くしろってことかな?」
「そうだろうな・・・」
 ヤマトは、炎に明るく照らされているアリババの顔を見る。
「天聖界は、あいつらのせいで、滅茶苦茶になってしまったんだ。なのに、そういうことも何もかも許してって、ことなんだよな」
 アリババは、ふうと大きな溜息をついてから、体を後ろに伸ばす。
「罪を許す。・・・そんなこと、本当に、出来るのかなあ・・・・・・?」
「それをどうにかするってえのが、ボクらの役目じゃないか!」
 ヤマトがドンと自分の胸を頼もしげに拳で叩く。
「そうだな」
 と、アリババは微笑んだ。

「そういえば。こうやって、二人で、いろいろ話をするのは、初めてかもな」
「そうだな。いつもみんなと一緒だから」
「今日は、いろいろ話せて楽しかったよ」
 アリババが笑った。
 ヤマトは元気よく右手を差し出す。
「次界に一緒に行こうな!」
 アリババもその手をがっちり握り、
「おう!」

「はらはらはら〜。未だ寝てなかったんですの」
 寝ぼけ眼の目をこすりながら、十字架天使が顔を上げた。
「ゴメン、ゴメン。起こしちゃったかあー!」
 ヤマトがいつものように頭をかきながら、明るく謝れば、
「もう、寝るか」
 と、アリババが焚き火の火を消す。
 それぞれが、それぞれの寝床について、

「おやすみー」



おわり