アツイ。
「そりゃあ、やっぱり夏だからな!」
騎神アリババが、パタパタと自分の手で、顔に風を送る。
そうではなくて・・・・・・。
「おーい!そっちに行ったぞ!」
二塁のピーターが叫ぶ。
「任しとけ!」
と、アリババが叫び、
「うわわ、わあっ!」
こちらに猛突進してきたアリババに、フッドは尻餅をつく。
「やあっ!」
と、センターのアリババは、レフトのフッドの上空を、遙かに飛び越え、ボールをナイスキャッチ。
「飛ぶなんて、反則でないんですカネ?」
と、側にいた、お守りの救審判が物イイをつけると。
「これも能力の内ってね!」
と、アリババは、ピッチャーに軽やかに送球をして、カラカラ笑う。
フッドは尻餅をついたまま、はあ・・・とうなだれる。
(君がアツイんだ。・・・・騎神アリババ)
汗が垂れる。夏の太陽が暑い。
「まあ、しょうがないじゃないか。タイガー王神が人数が足りないからって」
練習試合。今は、攻撃の順番。三人はベンチで、福笑い助子の用意してくれたお茶と、コア楽天使のお菓子でもって休んでいる。
「手抜き球魔との大事な決戦を前にしてるんだぜ!」
「でも、」と、フッド。
「何も、こんな炎天下でやらずとも・・・・・・。もっと、涼しい時に。せめて、陽がもう少し落ちてから、やった方が効率的ではないのだろうか?選手もその方が、本来の力を発揮できるのでは?」
隣で汗を拭いていた、もう一人の連れに。
「ピーター。君はどう思う?」
「僕は別に構わないよ」
ピーターは何食わぬ調子で。
(そんなっ!一番、汗が苦手だと思ったのに!)
「野球をやったのは、初めてだったけど。みんなで、一つの白球を追いかける。こういうのも、悪くはないね・・・・・・」
彼は、熱気で揺れる、茶色い土のグランドを見渡し。
「アリババはいつも、僕等に、違う世界を見せてくれるな・・・・・・」
(すっかり、感化されてる・・・・・・)
フッドは少なからず、ショックを受ける。
「それに私達は、次界に向かう大事な旅の途中でっ!」
「フッド。スリーアウトだ。行くぞ!」
アリババは、ぽんとグローブでフッドの胸を叩き、のん気な声で。
「フッドは暑いのがイヤなのかあー?」
「そうだとも!」
と、フッドは胸を張り、グローブを受け取る。
(そりゃ、君は、)
フッドはちらりとアリババの馬の部分を見る。
(涼しそうな下半身をしているからな)
一方、アリババは。
「魯神フッドは厚着だからな。帽子ぐらい、脱いだらどうだ?」
■
「ええ!明日の試合もだって!」
練習試合が終わったばかりの控え室で、彼等三人を待ち構えていたのは、天聖界チーム。大袈裟に驚いたフッドに、キャプテンのタイガー王神は丁寧に頭を下げるのだった。
「はい。どうか、宜しくお願い致します」
「明日の試合って、生中継だろ。全国ネットだろ?」
アリババが眉をしかめて前にでる。
「天聖テレビはやばいな・・・・・・。ゼウス様、見てるぞ」
(ああ、そうだ!)と、フッドは心で呟き、(こんな遊んでるトコロを見られたら!)と、アリババを見れば。
「すごい、うらやましがられちゃうぞ!」
「私達が気にすべきは、そこではないだろう」
フッドの目が平らに。
「でも、何でまた?明日には残りのメンバーが到着するはずだったのでは?」
と、ピーターが尋ねれば、
「ううう・・・」
と、タイガー王神達は、苦悶の表情を浮かべる。
何か、訳が?
「何だって!何で、それを早く言わなかったんだ!」
と、フッドは拳を握り、タイガー王神に熱く抗議。 (私達の汗を返せ!)
・・・・・・つまり、こういう訳だ。
天使対悪魔の夢の球宴を目前にして、天聖界チームのメンバーが三人、悪魔に誘拐された。三人の命が惜しくば、この件を秘密にした上、試合に負けろ、と。
「これは天聖界と天魔界、それぞれの威信をかけた戦いだからね。この試合の勝敗が、各々の軍団の士気に影響する。天魔界側は、是が非でも負けられないということだな」
口元に手をあてるピーター。
「俺は、八百長試合に荷担するなんて真似、できないぜ」
アリババは冷たく言い放ち、キッと。
「それで本当にいいのか?タイガー王神」
「私もそんな卑怯な真似など・・・・・・」
うつむき、顔をしわくちゃにして。
「・・・・・・しかし、仲間の命が・・・・・・」
虎の目に涙。
アリババが目配せをする。
ピーター。うん。
フッド。うん。
「悪魔退治に行くか!」と、アリババ。
「行こう!」、うなづくピーター。フッドも拳をあげ。
「おう!」
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